薬剤師の日々研鑽

薬剤師の日々研鑽

医学部へ学士編入した薬剤師が基礎的な内容と薬の関連について書いています。内容に関しては最新の情報を参照ください。

プリンペランとナウゼリンの違いと使い分け 制吐薬(吐き気止め)の作用機序

プリンペランナウゼリンの違いについて調べてみました。



【目次】

嘔吐の病態生理と各制吐薬のメカニズム

まずは嘔吐の生理的メカニズムを一緒に復習していきましょう。

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「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2011」より引用


嘔吐は延髄に存在する嘔吐中枢が刺激されることで起こります。
嘔吐中枢は血液脳関門に囲まれているため薬剤によって直接刺激されることは少なく、それぞれの経路から神経伝達されて刺激されます。
その経路は4つに分類されるようです。

①大脳皮質からの経路

脳血管の病変(梗塞や出血)による脳浮腫や、脳腫瘍による頭蓋内圧亢進などの物理的要因や、不安などの精神的要因が嘔吐中枢を刺激します。

②化学受容器引金帯からの経路

延髄の第四脳室底に存在する化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone:CTZ)は同じ延髄に存在しますが、血液脳関門がなく様々な催吐性の刺激を受け、嘔吐中枢へと伝達します。オピオイド服用による嘔気などに該当します。ドパミンD2受容体やセロトニン5-HT3受容体、ニューロキニンNK1受容体が存在するためそれらの受容体拮抗薬が用いられます。


③前庭器からの経路

前庭では体の動きや内耳障害により刺激され、ムスカリンAchm受容体やヒスタミンH1受容体が関与したニューロンにより、嘔吐中枢を直接もしくはCTZを介して伝達します。中枢への移行性が第一世代の抗ヒスタミン薬が用いられます。第一世代は抗コリン作用も持っているため、乗り物酔いの予防や改善に適している。


④末梢からの経路

咽頭、心臓、腹膜など種々の臓器において機械的刺激により自律神経を介して嘔吐中枢へ伝達します。ドパミン刺激により消化管運動が抑制され、胃内容物が停滞し、消化管の伸展・機械的刺激が起こり嘔吐刺激が伝達されます。また、D2遮断薬で末梢でD2受容体を遮断することでアセチルコリンが遊離され消化管運動が亢進します。化学療法などで消化管粘膜障害が起こると、腸クロム親和性細胞からセロトニンが放出され自律神経を介して刺激が伝達されます。



プリンペランナウゼリンの違い

2剤の違いは血液脳関門の透過性の差にあります。
プリンペランは透過性が高いため上記の②CTZを介した中枢性、④末梢性嘔吐の両方へ作用します。
ナウゼリンは透過性が低いため④の末梢性嘔吐へ主に作用します。

次の場合における消化器機能異常(悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満感)//胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胆のう・胆道疾患、腎炎、尿毒症、乳幼児嘔吐、薬剤(制癌剤・抗生物質・抗結核剤・麻酔剤)投与時、胃内・気管内挿管時、放射線照射時、開腹術後。
X線検査時のバリウムの通過促進。

整形外科においてトラムセットが処方されますが、オピオイドによるCTZでのμ受容体刺激がドパミン遊離を促し、ドパミンD2受容体を介して嘔吐中枢を刺激するため、嘔気予防としてプリンペランが併用されます。中枢への移行性が悪いナウゼリンでは効きが悪いようです。


次の疾患および薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、上腹部不快感、腹痛、胸やけ、あい気)//慢性胃炎胃下垂症、胃切除後症候群、抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤投与時

効能の違いを見ると、ナウゼリンにはレボドパ投与時の記載があります。
レボドパと言えばパーキンソン病治療薬ですが、その病態は脳内ドパミン量の低下が関与しており、そこにドパミンD2遮断のナウゼリンを投与すると病態が悪化しそうに感じます。しかしナウゼリン血液脳関門を通過せずパーキンソン病の重要な部位である黒質線条体への移行性が低いためレボドパによる消化管運動低下を改善し、嘔吐治療薬となりえているのでしょう。


一方でナウゼリンはn -オクタノール/pH7.4 緩衝溶液の分配係数が3.2と脂溶性が高いため、動物実験においてですが胎盤透過性の高さが懸念され、禁忌にも記載があります。

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プリンペランは中枢移行性が高いために黒質線条体ドパミンにも拮抗してしまい、錐体外路症状の副作用出現頻度がナウゼリンに比べ高くなっています。トラムセット服用開始から一週間程度でプリンペランの併用を中止するのは、トラムセットによる嘔気が収まってくるのと、プリンペランによる錐体外路症状の発現を予防するためのようです。


参考文献

・がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2011
・各種インタビューフォーム
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高血圧の薬(カルシウム拮抗薬)の作用機序と使い分け

高血圧治療に欠かせない薬剤であるカルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)。

循環器内科や腎臓内科、神経内科代謝内科で異なる種類の薬剤が出されますが、どんな特徴があるのか調べてみました。違いがわかると、患者さんにも説明しやすいです。

 

【目次】

 

 Ca拮抗薬の作用機序

チャネルからCa2+流入→筋小胞体からCa2+放出→カルモジュリンと結合→ミオシン軽鎖キナーゼ活性化→ミオシンとアクチンの滑り運動

 

 平滑筋は興奮が電位として伝わってくると、電位依存性Ca2+チャネルよりCa2+が流入し、その刺激により筋小胞体からさらにCa2+の放出が起こります。増加したCa2+はカルモジュリンと結合し、ミオシン軽鎖キナーゼを活性化し、ミオシンがアクチンと反応し、収縮が起こります。

 

そのほか、交感神経や副交感神経によっても調節を受けます。収縮(α1受容体→Gq/11タンパク質)や弛緩(M3受容体→Gq/11タンパク質)

yakuzaishikensan.hatenablog.com

yakuzaishikensan.hatenablog.com

 

収縮の最初のチャネルからのCa2+の流入を抑制し、血管平滑筋の収縮を抑制するのがCa拮抗薬です。これにより末梢抵抗が下がり、血圧が低下します。

 

Ca拮抗薬の血管選択性

生理学の復習になりますが、心筋や平滑筋は細胞に流入してきたCa2+が直接収縮へ関与しているのに対して、骨格筋は筋小胞体からのCa2+放出が主に収縮に関与しているため、Ca拮抗薬は主に平滑筋や心筋に働きやすく、骨格筋へ働きにくくなっています。

 

また、細胞膜電位の観点から見ると、作用部位である電位依存性カルシウムチャネルは電位によって3つの状態があり、

-90mVでは閉じている状態

-50mVでは不活性化状態

0mV以上では開いている状態

となっています。ジヒドロピリジン系は不活性化状態のカルシウムチャネルに親和性が高いため、静止膜電位が-60mVの平滑筋と、-90mVの心筋や骨格筋を比べると、-50mVに近く不活性化状態のチャネルが多い平滑筋に作用しやすいため血管選択性があります。

 

Ca2+チャネルの種類と局在

作用機序で述べたCaチャネルには主に3種類存在します。活性化した状態から不活性になるまでの時間で、

L型(Long-lasting:長い)

N型(Neutral:中間)

T型(Trasient:短い)

の3つに分けられます。

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L型を抑制すると輸入細動脈のみを拡張し、入口だけ広くなり出口が狭いために糸球体内圧を上げてしまい、腎臓に負担をかけてしまいます。

NやT型を抑制すると、輸出細動脈も拡張するため糸球体内圧を低下させ、腎保護に働きます。

 急激に血管拡張が行われると、圧受容器が血圧低下を感知して、血圧を維持するために代わりに心拍を増大させる反射性交感神経刺激が起こりますが、N型へ作用すればその反射を抑制して心臓への負担も少なくなります。

 

各Ca拮抗薬の特徴

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特徴をまとめました。降圧力は日経ドラッグインフォメーション2015年4月号を参照してます。

 循環器内科では冠攣縮性狭心症に適しているベニジピンやニフェジピンが用いられることが多いです。ベニジピンは脂溶性が高く、脳への移行性もよいことから神経内科でも出されることがあります。

糖尿病内科では合併症の腎症の発症や伸展予防のために腎保護作用のあるアゼルニジピンやシルニジピンが処方される傾向があるようです。

 

有機化学からの分析

ジヒドロピリジン

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http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdfより引用

各添付文書より構造をひっぱってきました。ニフェジピンよりも後に発売されたアムロジピンやアゼルニジピンを見てみると、親水性のアミノ基を導入したり疎水性のベンゼンを入れたりしています。細胞膜は両親媒性であるため、そうすることでより細胞膜への移行性を高めており、脂溶性が高いほど作用持続時間つまり半減期が長くなっています。半減期が長いということは作用発現時間(定常状態)も長いことに繋がります。

 

非ジヒドロピリジン

ジヒドロピリジン系(語尾に~ジピンと付くもの)は血管選択性が高い一方、

非ジヒドロピリジン系(ベラパミル、ジルチアゼム、ベプリジル)は心筋選択性が高く、陰性変力(心収縮力低下)、陰性変時(心拍数低下)作用を持つ。

 

・ベラパミルは陰性変力・変時ともに強いのが特徴で、心房細動などの上室性の頻脈性不整脈で使用される。

 ・ジルチアゼムは陰性変時作用が強い一方で陰性変力作用は弱いため心機能低下例でも比較的安全に用いることができる。冠攣縮や心房細動のレートコントロールへ使われる。 ベプリジルは抗不整脈

 

副作用

・下腿浮腫

Ca拮抗薬の作用部位であるのは平滑筋ですが、静脈と違い、動脈では平滑筋が発達しているため主に動脈へ作用します。末梢動脈が拡張しやすい一方で、末梢静脈は拡張しにくいため毛細血管の圧力が高まり、血液成分が漏れ出して足や手、瞼などに浮腫を生じることがあります。その副作用予防のためにも、末梢静脈も拡張させるARBとの併用が効果的で、合剤も発売されています。

 

・頭痛や頭重感・顔面紅潮・ほてり・動悸

血管拡張作用で過度に血圧が低下すると頭痛や頭重感・顔面紅潮・ほてりが生じます。また過度に血圧を下げることで反射性交感神経刺激により動悸が出現することもあります。

 

・徐脈

非ジヒドロピリジン系の場合には陰性変時・変力作用が働きすぎると心拍低下や心収縮力低下で心不全を呈することがあります。

 

参考文献

・村川裕二『循環器治療薬ファイル』メディカルサイエンスインターナショナル,2014

・日経DI 2015年4月号

・柳澤輝行,増宮晴子,渡邊春男『電位依存性 Ca2+チャネルの分子薬理学と Ca 拮抗薬の差異化』[新目でみる循環器病シリーズ 21]『循環器病の薬物療法メジカルビュー社、2006 年 1 月 1 日、pp188-199 

 

http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf

ループ系とチアジド系利尿薬の違い

日常業務でよく目にするループ系とチアジド系。どんな性質の違い、どんな使い分けがあるのか再度学習しました。

【目次】 

 

 

各部位のナトリウム(Na+)再吸収の割合

近位尿細管で約70%、ヘンレ係蹄(ループ)で約15%、遠位尿細管で約7~10%、集合管で残りの2~3%とされています。水はNa+とほぼ同じ動きをします。

 

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                                       Adalat.jpより引用

ループ系

・強い利尿作用

ヘンレループ上行脚のNa+/K+/2Cl-共輸送体に働くループは、高度にNa再吸収を抑制(最大で約25%)し、強い利尿作用を持つ。フロセミド(商品名ラシックス)は、その商品名の由来通り、Lasting for six hoursと6時間ほどしか効果時間がないため降圧薬としては不向き。心不全の前負荷軽減や、浮腫などの改善に用いられる。

・K+低下しやすい

ループ上行脚でNa+/K+/2Cl-共輸送体を阻害すると、そもそもNa+とK+の排泄が増加する(ループに特異的)。それに加えて、増加したNa+が集合管の上皮細胞のNa+チャネルを通じて再吸収され、電位を維持するためにK+を代わりに排泄されるため、低カリウムとなりやすい(ここはチアジドも共通)。

・腎機能低下例でも使いやすい

プロスタグランジン産生を促進し腎血流維持に働くため、腎機能低下例でも使いやすい。継続するとチアジドの作用部位であるNa+ /Cl-共輸送体の発現が上昇し、薬効が低下してくるため、その際にはチアジド系の併用が望ましい。

 

チアジド系

・弱い利尿作用

遠位尿細管のNa+/Cl-共輸送体に働くチアジドは、Na+再吸収を抑制する。しかし、遠位尿細管からの再吸収は寄与率が低いため(約7~10%)、利尿作用は弱い。ループと違って作用時間は長いため、降圧薬として用いられる。

 

・Na+低下しやすい

作用部位(遠位尿細管)より後ろではNa+再吸収の割合が低いため、チアジドによるNa+排泄亢進の代償が働きにくい。

 

・高度腎機能低下例では無効

プロスタグランジン産生には関与せず、循環血漿量を低下させるため腎機能低下を引き起こす。また、高度腎機能低下(eGFR:30 mL/min以下)では薬剤が作用部位まで到達しにくいことと、そもそもNa+の排泄自体が低下していることから効果が出にくく使いにくい。Na再吸収を阻害することで、遠位尿細管に存在するNa+/Ca2+交換系も阻害し、Ca2+の再吸収を亢進するため、骨粗鬆症患者に用いやすい。

 

 

・少量で用いる

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                厚生労働省 第1回降圧利尿薬に関する検討会 資料より引用

 

用量依存的に降圧効果は上昇していくが(赤線)、その傾きは小さく、通常用量以上では、副作用発現頻度の上昇の傾きが上回る(白線)。高用量では低カリウム血症が出現しやすい。

 

 

利尿薬が代謝異常を引き起こすひとつのメカニズム

インスリンが細胞へ作用しGLUT4を介して糖を取り込む際にはK+も細胞内へ共輸送されるが、低カリウム血症ではカリウム不足のためにGLUT4の働きが抑制されるため、細胞内へ糖が取り込まれず高血糖となりやすい。そのため少量で用いられるのが主流となっている(K+貯留傾向のあるARBとタッグを組みやすく、少量の配合剤が販売されている)。

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ビグアナイド(メトホルミン)の作用機序・チェックすべき検査項目

米国糖尿病学会(ADA)も第一選択薬としているメトホルミンについて深堀してみました。生化学や有機化学とも大いに関連してきます。

 

【目次】

 

 

構造と名前の由来

ビグアナイドという言葉は、『bi+guanidine』から来ています。biは2つのという意味を表し、2分子のグアニジンが結合した構造をしているために上記のような命名になっています。

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グアニジンの構造 

 

 

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 メトホルミンの構造

 

作用機序

①腸管からの糖吸収を抑制

②各組織での糖利用を促進(インスリン抵抗性改善)

③肝臓からの糖新生を抑制

 

 ①については詳細な機序は不明のため、②および③について解説します。

基本的にAMPK(アデノシン一リン酸活性化キナーゼ)を活性化することがキーとなっています。

 

②主に骨格筋、脂肪細胞において、AMPKの活性化を通じて糖輸送体GLUT4を細胞膜上に移行させ、糖の取り込みを促進して血糖を低下させる。

これら①と②により食後高血糖を抑制します。

 

脂肪酸合成≫

アセチルCoA→マロニルCoA→→→脂肪酸

また、AMPK活性化を介して、脂肪酸合成に必要なアセチルCoAカルボキシラーゼを阻害することで脂肪酸のβ酸化を促進し遊離脂肪酸を低下させインスリン抵抗性改善作用を持ちます。

 

コレステロール合成≫

アセチルCoA→アセトアセチルCoA→HMG-CoA→メバロン酸→→→コレステロール

またスタチン系のようにコレステロール合成に必要なHMG-CoA還元酵素を阻害しLDL-Cを低下させる作用も併せ持ちます(重篤な副作用に横紋筋融解症の記載あり)。

 

③AMPK活性化を介して、

糖新生

オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸→→→グルコース-6-リン酸→グルコース

ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(オキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸の産生に関与している酵素)と、

グルコース-6-ホスファターゼ(肝臓に特異的に活性が高い酵素で、グルコース-6-リン酸からリン酸を外す酵素)を阻害するため糖新生がブロックされます。これにより空腹時高血糖も改善します。

 

以上のようにSU剤とは異なり、インスリン分泌を促進するわけではないため、単剤では低血糖を起こしにくい薬剤です。

 

用量依存性

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             メトグルコ インタビューフォームより引用

このように用量を増やしていくにつれてHbA1c低下作用は上昇していきます。日本でも上限2250mgまで投与が可能となっています。

 

臨床でフォローしたいポイント

・水溶性で腎排泄型

構造式を見ても炭素含有率が低く、電気陰性度の高い窒素原子が多く含まれ極性が高く、そのため水溶性と考えられる。確認のためインタビューフォームを参照すると、「水に溶けやすく、酢酸にやや溶けにくく、エタノールに溶けにくい」との記載に加え、尿中未変化体排泄率は約86%とあり、腎排泄型であることがわかります。

用量依存的に効果が出るとはいえ、中等度~高度腎機能低下例では排泄遅延のため乳酸アシドーシスのリスクが高まります。『メトホルミンの適正使用に関するRecommendation』によると、eGFR:30mL/min/1.73m2未満では禁忌、30~40では慎重投与となっています。またヨード造影剤や脱水によって排泄が遅延するのも危険因子であるため検査当日+前後2日間は中止、シックデイでは脱水予防の指導が重要になりそうです。

 

・心肺機能低下例や肝機能障害例

心不全心筋梗塞、低酸素血症となるような病態では嫌気的解糖が亢進し、乳酸産生が増加しやすいため禁忌。また乳酸は主に肝臓において乳酸脱水素酵素LDH)によってピルビン酸へ代謝されるため、重度の肝機能障害例では禁忌となります。

頻度は10万人あたり3人と稀ですが、消化器症状があれば以下の検査項目はチェックしていきたいと思います。

アニオンギャップ [Na-(Cl+ HCO3-) :正常値12±2mEq/])>16

血液pH<7.35

血中乳酸値>5mmol/L (45mg/dL) 

アニオンギャップは、血中の陽イオンと陰イオンの差(ギャップ)を計算するものです。細胞外にはNa+、Cl-、HCO3-、有機酸(乳酸など)が存在しています。乳酸は酸なのでH+が電離して負に荷電しています。乳酸は肝臓で糖新生の経路で処理されますが、処理能を上回った場合にはアニオンギャップが大きくなり、pHも低下します。

 

 SGLT2阻害薬が出るまでは大血管障害を抑制するエビデンスがあった唯一の経口糖尿病薬でした(Arch Intern Med.2010 Nov 22;170(21):1892-9)。今でも最前線で張っている薬剤で、使い方を守れば効果の高い薬剤です。

 

参考文献

・メトグルコインタビューフォーム

・メトホルミンの適正使用に関するRecommendation

http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf 

・岩岡秀明,栗林伸一,『糖尿病診療ハンドブックver2』中外医学社,2015 

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SGLT2阻害薬の作用機序・副作用・エビデンス

SGLT2阻害薬とは 

 

【目次】

 

 

そもそもSGLTとは

 ナトリウムーグルコース共役輸送体:SGLT(Sodium-GLucose co-Transporter)は、細胞外(尿細管)の高いNa+濃度と、細胞内の低いNa+濃度の差によりNa+が細胞内へ入っていく力を原動力として、一緒にグルコースを細胞内へ能動的に輸送するタンパク質です。

 

 糖の再吸収

近位尿細管の起始部(S1)に存在するSGLT2はろ過されたブドウ糖の90%を再吸収し、吸収しきれなかったブドウ糖の残り10%を近位尿細管遠位側(S3)に存在するSGLT1が再吸収します。通常1日180gのグルコースがろ過されますが、この機構により健常人では尿糖は検出されません。グルコースは人体にとっては貴重なエネルギーであるため多く尿へ排泄されてしまったらそれを回収しようとします。そのため尿糖が多く排泄される糖尿病患者の尿細管上皮細胞にはSGLT2の発現量が増加しています。

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                  スーグラ錠インタビューフォームより引用

 

SGLT2阻害薬とは

腎臓の近位尿細管に局在する、SGLT2を選択的に阻害し、余分なグルコースの再吸収を低下させ、尿と共に排泄させることで、血糖値を低下させる薬剤です。

 

 

SGLT1をなぜ阻害しないように設計したのか 

SGLT1は小腸や骨格筋、脳にも発現しているほか、血糖が低い状態ではSGLT1を介した再吸収量が増えることが報告されています。そのためSGLT1を阻害することで、小腸では糖の吸収阻害により浸透圧性の下痢を生じる恐れや、骨格筋や脳での未知の副作用が発現するリスク、また低血糖のリスクが懸念されます。ですが、各薬剤ごとに選択性が異なり、カナグルはSGLT1も阻害することで小腸での糖吸収抑制も利点になっています。

 
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                        スーグラ錠 審議結果報告書より引用

他の経口糖尿病薬と同様に、HbA1c低下はおよそ1%。尿中へのグルコース排泄量は1日約80gほどであり、アトウォーター係数をかけると約320kcalのエネルギーの減少となり、その減少分を内臓脂肪から利用するため、脂肪減少や体重減少作用が認められています。

SGLT2を阻害していることからNa排泄も増加すると予想しましたが、副作用に電解質異常はみられず、他の機構によって再吸収されていると思われます。

尿中への糖排泄が増えるため浸透圧利尿により、尿量が増加し、血圧低下作用もあるようです。尿量のデータを見るとばらつきがありますが、服用により1日200mL以上増加しているようです。過度な利尿は脱水および血液の濃縮を惹起し、脳梗塞心筋梗塞のリスクを高める恐れがあるため、服用開始後は通常より1日500mLほど多めの水分摂取を指導した方がよさそうです。またDSUより、BUNやヘマトクリットのフォローも重要と思われます(薬食安発0109号第2号)。

 

有効性に関わる因子

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このデータからすると、腎機能が60mL/min/1.73m2以下の軽度腎機能低下患者と、30以上60未満の中等度腎機能低下患者では正常者に比べ、尿糖排泄量および排尿量が増加しておらず、血糖値も低下していません。SGLT2阻害薬は一度尿細管へ分泌され、SGLT2へ結合し、作用を発揮すること、また高度の腎機能低下例では原尿量の低下があり、尿糖が多く排泄されにくいため45mL/min/1.73m2以下の患者では薬効が得られにくいと考えられます。

 

エビデンス

心血管イベント抑制のエビデンス 2015年にEMPA-REG OUTCOMEが出されました。心血管疾患既往歴のある2型糖尿病患者約7000例を対象にした試験において、エンパグリフロジン服用群ではプラセボに比べ、心血管疾患死が約40%低い結果となりました。 対象者の背景が平均年齢60歳以上、BMIも30以上と、日本の患者背景とは異なる面が大きく、考えなしに日本人にこれを適用するのは早計ですが、これまで脱水リスクから心筋梗塞脳梗塞既往例には投与しにくい印象だったSGLT2阻害薬が、副次的な利尿作用のためか大血管障害予防効果が出てくるなど印象が大きく変わりました。(これまではメトホルミンにしかエビデンスが認められていませんでした。) このベネフィットを得るためにも、副作用リスクによる治療からの離脱を回避する必要があります。

このように治療効果が新しい薬剤で、そのベネフィットを患者さんが得られるように、副作用によるドロップアウトを薬剤師の観点から防ぎたいと思います。

 

<参考文献>

・スーグラ錠 インタビューフォーム

・スーグラ錠 審議結果報告書(

http://www.pmda.go.jp/drugs/2013/P201300172/800126000_22600AMX00009000_A100_1.pdf

http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf 

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ロキソニンと授乳 どう判断するのか

ロキソニンと授乳

 

 

授乳中の方が歯痛や頭痛、風邪などでの発熱など解熱鎮痛薬であるロキソニンを服用されることがあると思います。現代はネットで検索すれば薬の添付文書が見れる時代ですので検索すると、

下の画像のように

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                             ロキソニン錠60mg 添付文書より引用

授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること との記載が出てきます。

これを見た方は「この薬飲んで大丈夫?」と不安になってしまうことと思います。

 

本当にそうなのか薬学的に検討してみました。

結論から言うと、問題ないと思われます。

 

この先は医療関係者向けにその科学的根拠を記載していきます。 

 

【目次】

 

 

 物理化学的性質から

薬剤は、全体の流れとしては母体血漿⇒母乳を産生する腺房細胞⇒母乳の順に移行していきます。

腺房細胞同士は密着結合しており、受動拡散に従って細胞を介して移行します。

受動拡散のため、薬剤の移行しやすさに関わる因子は以下の通りです。

 

分子量

分子量は304.31。分子量200以下の薬剤が細胞膜の細孔を通過しやすいため、移行しづらい性質を持つ。

 

脂溶性か水溶性(1-オクタノール/水分配係数)

脂溶性か水溶性かを表す指標である1-オクタノール/水分配係数は0.82であり、1以下のため水溶性。細胞膜を通過しやすいのは脂溶性であるため、これも移行しづらい。

 

塩基性か酸性か(pKa)

pKaは分子型とイオン型の割合が等しくなる時のpHを指す。4.2の酸性薬物であり、pH7.4の血漿中ではpKa<pHとなっており、分子型の割合が少ない。分子型の方が細胞膜の通過性がいいため、移行しづらい。

 

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また、母乳のpHは6.8と弱酸性であるため弱塩基性の薬物が母乳へ溶けやすい、この観点からも移行しづらい。

 

半減期

半減期についてだが、ロキソニンの成分であるロキソプロフェンは体内で活性化して作用を発揮するプロドラッグであり、活性代謝物(trans-OH体)が存在する。trans-OH体の半減期も考慮すべきと考える。ロキソプロフェンおよびtrans-OH体の半減期は1.22時間、半減期が長いほど体内へ蓄積しやすく、その分母乳への移行率も高くなる。活性代謝物ともに半減期は短く、6時間ほどで体内から消失し、蓄積性もないため、移行しにくいと考えられる。

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 1日3回で投与間隔が6時間だとすると、投与間隔τ/半減期1.22時間=4.9で蓄積率1未満であり、定常状態には達しない(ロキソプロフェンが1-コンパートメントモデルと仮定した)。

 

タンパク結合率

タンパク結合率はロキソプロフェンが97%、trans-OH体が92.8%と非常に高い。血中のタンパク質と結合していない薬物が組織へ移行しやすいので、腺房細胞へも移行しにくい可能性が高い。

 

以上、ロキソプロフェンおよびその活性代謝物の物理化学的特性から検討しましたが、判断基準としては実際の血中濃度も考慮すべきです。

 

 

薬物動態的性質から

相対的乳児摂取量(RID)

インタビューフォームより、60mg投与後1~6時間の乳汁中ロキソプロフェンおよびtrans-OH体濃度は測定限界(0,02μg/mL)以下との記載があるため、ほとんど移行していないことがわかります。

 

また、母体投与量のうち、何%が乳児へ移行したかを表す指標として、相対的乳児摂取量(RID)というものがあります。

RID=母乳中濃度×哺乳量(mg/kg/day)/母親の投与量(mg/kg/day)×100

 

通常は1回1錠で服用すると思いますが、急性上気道炎に関しては120mgを1日2回服用するのでその用量でも検討してみます。

①まずは式の分子から計算していきます。 上述の通りインタビューフォームから母乳中濃度は検出限界以下ですが、仮に検出限界値の0.02μg/mLあったと仮定すると、60mgの投与量でその濃度なので、1日の総投与量の240mgでは0.08μg/mLあると推定されます。乳児の平均哺乳量は150mL/kg/dayなので、乳児の理論的な摂取量は0.08μg/mL×150mL/kg/day=12μg/kg/day=0.012mg/kg/dayとなります。

 

②次に分母を計算します。母親世代の平均体重は50kgなので、母親の投与量は240mg/50kg/day=4.8mg/kg/day。以上①、②をRIDの式へ代入すると

RID=0.012/4.8×100=0.25%

となります。RID<10%未満であれば安全と言われています。1%未満であればまず問題になりません。

母乳中濃度を多めに仮定しても安全に投与できるということになりました。実際には0.02μg/mL以下なので、よりRIDは低くなると予測され、より安全に使えると思われます。

 

ですがごくごく少量は母乳へ移行しているということなので、医師と協議した後の投与がよいと思われます。

 

 

参考文献

ロキソニン錠 添付文書・インタビューフォーム

・「妊娠・授乳と薬」愛知県薬剤師会発行

http://www.achmc.pref.aichi.jp/sector/hoken/information/pdf/drugtaioutebikikaitei%20.pdf

・水野克己、水野紀子「よくわかる母乳育児」へるす出

 ・「母乳とくすりハンドブック」大分県母乳と薬剤研究会 編集

母乳がでないママのサポート☆ミルニック☆

http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf 

大幅減量ダイエット

 

グリメピリドとグリクラジドの違い

 

92歳の高齢女性が心筋梗塞をきっかけにグリメピリドからグリクラジドへ変更になっていた症例を経験したため、理由を調べてみました。

 【目次】

 

【薬物動態】

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「症例から学ぶSOAPワークブック:薬剤師が行う薬物治療マネジメント」より引用

 

どちらもAe:尿中未変化体排泄率は0%であり、腎排泄型ではない。

更に細かくみていくと、グリクラジドは活性代謝物がないのに対して、

グリメピリドは活性代謝物が存在し、かつその活性代謝物の排泄経路に腎が大きく関与している。

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グリメピリドには活性代謝物M1、M2が存在し、それらは尿中に回収されている。

 

今回の症例では腎機能が28mL/minと高度に低下しているため、遷延性低血糖回避のためにもグリクラジド選択が妥当と思われる。

 

有機化学

グリメピリド:ベンズアミド類似構造を持つためSU受容体(SUR)のSU結合部位だけではなく結合力は弱いものの、ベンズアミド結合部位とも結合する。

⇒SUR非選択的

 

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アマリール 添付文書より引用

 

 

グリクラジド:ベンズアミド構造を持たず、SUR2AやSUR2Bとは結合しづらい。⇒SUR1に対する選択性が高い。(Neuron 16:1011-1017, 1996)

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グリミクロン 添付文書より引用

 

SURのサブタイプとその分布

SUR1   (SU結合部位+ベンズアミド結合部位を持つ):膵臓β細胞

SUR2A(ベンズアミド結合部位のみ持つ)          :心筋細胞

SUR2B(ベンズアミド結合部位のみ持つ)        :血管平滑筋細胞

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月刊糖尿病 2015/2 Vol.7 No.2より引用

 

SURサブタイプへの選択性による作用の違い 

心筋細胞に分布するSUR2Aへ作用することは、虚血プレコンディショニング(一度虚血状態を経験することで、心筋梗塞を起こした際の梗塞部位を少なくするという虚血耐性)を阻害し心筋保護作用を減弱してしまうことが懸念されている。

 

そのため、SUR1への選択性の高いグリクラジドが心血管疾患を合併した患者に使いやすいという点があるのかもしれない。

 

実際に文献を調べてみると、心筋梗塞の既往あるなしに関わらず、

グリメピリドは有意に約1.3倍心血管死のリスクが高いが、

グリクラジドは有意ではなく、リスクが高くなる傾向もなかった。

Mortality and cardiovascular risk associated with different insulin secretagogues compared with metformin in type 2 diabetes, with or without a pre... - PubMed - NCBI

 

グリクラジドで心血管死のリスクが高くならなかった背景には、グリクラジドの血小板凝集抑制効果や、フリーラジカル除去効果、血清脂質改善効果によるものかもしれない(伊集院太生 2015 スルホニル尿素薬の差別化-グリクラジドとグリメピリドをいかに使い分けるか?- Progress in Medicine,35巻 7号)。

 

 

以上の観点からグリメピリドからグリクラジドへ変更されたと考えられます。

薬局薬剤師は専門性を持たず、どの診療科の薬剤に対しても知識を持っていることが重要ですが、こうした専門医の深い知識には頭が下がります。負けじと努力を続けたいと思います。

 

参考文献

・高橋晴美,緒方宏泰,越前宏俊『症例から学ぶSOAPワークブック』じほう,2004

・岩岡秀明,栗林伸一,『糖尿病診療ハンドブックver2』中外医学社,2015 

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